私たちが暮らしている日本は、四季折々の豊かな自然と風土に恵まれています。その生活の中で育まれた、季節の移ろいへの鋭敏な感覚は、古来より、歌枕などとして知られる、土地と季節や時間が結びついた名所絵や、12ヶ月の風物を描いた月次絵などの絵画を生み出してきました。室町末期になると祭礼図や洛中洛外図といった風俗画が誕生し、年中行事や人々の生活が生き生きと表現されます。そして江戸時代に花開いた浮世絵にも、庶民に親しみ深い季節の風物が描かれました。
このたびの展覧会では、季節の情感がふんだんに盛り込まれた作品を展示します。中でも、近世初期風俗画の優品とされる《賀茂競馬図屏風》は、5月の年中行事を描きつつ、人物の風俗をより身近にとらえた賑やかな作品です。また、9月の「重陽の節句」で菊酒を嗜む二美人や、夏の川辺で一人夕涼みをする姿を描いた浮世絵作品は、季節と暮らしの風情をとらえ共感を呼ぶものです。近代の《諸名家画帖》には、雪月花はもちろん「清水寺雪景」などの名所絵といった、広く好まれた画題がみられます。
この機会に、今日では忘れかけてしまった懐かしい風物詩の数々をお楽しみください。