近代日本の工芸は、個人の美意識に基づく作品の創造を目指した工芸家たちによって発展し、今日みられるような様々な特色を生み出しました。ひとりの制作者においても伝統と革新とは常に相克し、素材や技法に立ち向かいながら、工芸という枠組みを問い直す試みが工芸の近代化を推し進めていきました。
明治期には輸出や博覧会を主要な目的とする精緻な技巧を凝らした工芸を求められましたが、1920年代に入ると、作者の内面や時代精神が作品に投影されるようになりました。欧米の芸術思潮に影響を受けたモダニズムの作家が活動する傍らで、民芸運動を推進させるグループは、変貌する近代社会のあり方を問いただしました。戦後になると、伝統の再解釈がはじまり、過去に足場を置きながら新しい表現領域への開拓が検証されました。一方、“オブジェ”への挑戦は、存在の根底から揺るがす勢いを既存の工芸に投げつけ、この分野に大きな刺激をもたらしました。今日では、工芸に特有の素材と技法、そしてそのかたちの成り立ちに対する関心が高まり、独自の造形性についてさかんに論議されています。
本展では、時代毎に浮かび上がる作家の思想、素材や技法の解釈、社会的背景等に着目し、日本の工芸100年の流れを約90点の作品によって紹介します。