未来派によって切りひらかれた20世紀イタリア美術の地平をたどるとき、アルテ・ポーヴェラ(Arte Povera/イタリア語で「貧しい芸術」の意味)の存在は欠かせません。1967年、ジェノヴァで開かれたグループ展に端を発する芸術家たちのゆるやかな連帯は、60年代の芸術運動にふさわしいラジカルな性格を示す一方、その自然や物質、古典古代との交わり方、「貧しい芸術」という暗示的な呼び名のうちに、独自の詩学をたたえています。材木や石、鉛、ぼろぎれや新聞紙など、「豊かさ」からは一見かけ離れた、非芸術的な素材を組み合わせ、そこにアーティスト自らの身体や思考を重ねあわせるプロセスは、抽象的な芸術観をすり抜ける具体的行為であり、20世紀末から現在にいたる芸術表現の柔軟性を先取した試みとして高く評価されています。本展覧会はアルテ・ポーヴェラ自体をまとめて取り上げるものです。初期作品を含む約60点の出品作によって、運動の全体像を示すと同時に、作家間・作品間の差異を明らかにすることで、アルテ・ポーヴェラの多産性、「開かれ」に迫ります。ポヴェリスティをつなぐのは特定の主義・手法ではありません。むしろ、たえず更新される身体と環境の関係を感受する能力と意志において、接近しているとみるべきでしょう。展示作品、すなわち鋭敏な感受性の証が、現代の美術の参照点として再確認されることを、さらには自然環境や社会に対する私たちの態度・行動選択のヒントともなることを願いつつ、本展を開催します。