「風景画」と言えば、誰しも山や海、河川といった自然美を描いた絵画を思い浮かべるのではないでしょうか。現代の日本人が最初に出会う風景画とは、教科書で見かけたセザンヌやゴッホらによる西洋絵画であることが多く、しかもこれらは19世紀後半以降の作品です。明治維新後、欧米化の波が強く押し寄せてきて、美術の世界で紹介されるのは専ら西洋絵画となり、日本古来の絵画はあまり顧みられない時期がありました。しかし浮世絵や工芸品などは、欧米では人気が高く、それに対応するため美術教育が盛んになったり、一方では欧化政策の反動で国粋主義が強まり、歴史画を含む日本の伝統的絵画を熱心に追求した時期もありました。
本展では第1章で、日本の山水画の源流となった中国の山水表現の特徴に注目しながら、その根幹にある文人画の考え方についても読み解いていきます。続く第2章では、「漢」をベースに日本独自の「和」に取り込んでいった、したたかな日本の山水画を見ていきます。第3章では幕末から明治維新の後、西洋文化から大きな影響を受けた近現代日本の風景画を、西洋絵画とともに紹介します。遠近法をはじめとする東西の風景表現の違いに注目したり、四季折々の実風景を思い浮かべながら見てみるなど、多様な表現をお楽しみいただければ幸いです。