わたくしといふ現象は 仮定された有機交流電燈の ひとつの青い照明です(あらゆる透明な幽霊の複合体) 風景やみんなといつしよに せはしくせはしく明滅しながら いかにもたしかにともりつづける 因果交流電燈の ひとつの青い照明です(ひかりはたもち その電燈は失はれ)…
宮沢賢治『心象スケッチ 春と修羅』序文より 1924(大正13)年
この展覧会は「時間旅行」をテーマとする東京都写真美術館のコレクション展です。
人が様々な時代を自由に旅する「時間旅行」という発想は昔からよく知られたSF的なファンタジーですが、想像の世界や芸術の領域では、人は誰でも時間と空間の常識を飛び越えることが可能なのではないでしょうか。
詩人で童話作家の宮沢賢治が1924(大正13)年に刊行した『心象スケッチ 春と修羅』では、宇宙的なスケールの時間感覚の中で「わたくし」の心象、言葉で記録された風景、そして森羅万象とがひとつに重なりあったような「第四次延長」という世界が描かれます。その世界観は当時の最先端の科学や思想から影響を受けた宮沢賢治の想像力が生み出したものです。しかし百年前の詩人の言葉とそれを生み出した想像力には、現代という分断の時代を生きる私たちの心にも響く何かがきっとあるはずです。
本展は百年前である1924年を出発点として、37,000点を超える当館収蔵の写真・映像作品、資料を主にご紹介します。「時間旅行」をテーマとする本展で皆様は、それぞれの時代、それぞれの場所で紡ぎ出される物語と出会うことができるでしょう。本展は宮沢賢治による『春と修羅』序文の言葉をひとつの手掛かりとして、戦前、戦後そして現代を想像力によってつなぐ旅でもあります。
写真と映像による時空を超えた旅を、どうぞお楽しみください。