このたび、石神の丘美術館では、当館コレクション(収蔵品)とゲストアーティストの作品をあわせて紹介するシリーズ企画をはじめます。初回となる本展では、当館コレクションより、30点からなる組写真、田村淳一郎《昭和の農村》をとりあげ、ゲストアーティストに増子博子(ますこ ひろこ/1982年宮城県生まれ、栃木県在住)を迎えます。
増子博子はさまざまな土地に暮らしながら、そこで出合ったもの、その土地に積み重なった事柄をほぐし、そこから得たことを養分とするように作品を制作しています。2020年から2023年にかけては、岩手県葛巻町に暮らし、そこで上高山兼太郎(1926-1988)の木彫り熊と出合い、東北で生まれた木彫り熊の調査・研究の深まりが作品制作へとつながってきました。
上高山兼太郎の出生地、葛巻町冬部地区は、一戸町生まれのアマチュアカメラマン田村淳一郎が若き日に通い、農村の暮らしと子どもたちの姿を捉えた場所のひとつでもあり、今に残る木彫り熊や写真作品は、昭和の一場面をそれぞれの角度から証言するものになっています。
一方で、増子博子が制作する作品には、土地に積み重なったものにそっと根をおろしつつ、時を隔て今、それを受け取る増子自身の思考や感情がたゆたうように広がる様がみられ、作品は画面内で成長を続けているかのようにも見えます。
「COLLECTION+(コレクションプラス)」と名付けられたシリーズ企画の第1弾。足し算のように、あるいは掛け算のように、作品を通じて昭和の岩手県北の暮らしや文化、それぞれの土地や人に堆積したものを見つめなおす機会となれば幸いです。