原美術館ARCは日本の中心にあります。日本の中心と言っても、誰もが思い浮かべる東京ではありません。ここは群馬県渋川市、「日本のまんなか」と称する街に原美術館ARCはあります。
中心とは何なのでしょうか?伊香保の名湯を有し、上毛の山々をのぞむ渋川市は、日本の主要四島で最北端と最南端を円で結んだ中心に位置する」ことから「日本のまんなか」とされる街です。しかし、「日本の中心」、「真ん中」を称する街は他にもあります。つまり、物事を捉える角度や尺度次第で、中心はその位置を様々に変化させるのです。
原美術館ARCは、原美術館(東京・品川)が別館ハラ ミュージアム アーク(群馬・渋川)と統合し2021年に誕生した美術館です。企画展を主軸としていた原美術館とは異なり、ここでは主に現代美術と東洋古美術の収蔵作品展を開催しています。このことは一般的に、原美術館が中心都市・東京からその周縁に拠点を移したと捉えられるでしょうし、企画展を中心にすえる日本では、収蔵作品展は周縁的展覧会とされるでしょう。
ですが、災禍を経験している私たちの視界には、豊かな自然の移ろいとともにあり時間芸術とも呼べるここでのアート体験が入ってきましたし、地球の持続可能性が危ぶまれる現在では、大掛かりな宣伝や演出を伴う企画展ではなく、アーティストとの信頼関係を礎として今ここにある作品群と向き合う収蔵作品展の開催こそが原美術館ARCの中心的な役割のひとつであると考えています。
アートとは、中心(既成概念)をずらす思考のことであり、中心を変えることは先端に立つことでもあります。かつて世の中の視線が新しさに向いていた日本で、廃墟と化した戦前の洋館を「原美術館」として維持し続けたことや、RC造が公共建築の当たり前だった時代にハラ ミュージアム アークを木造にしたことが先駆的であったように、そもそも価値の定まっていなかった現代美術を両館から国内外に発信した活動が先進的であったように、原美術館ARCも先端に立ち続けようと思います。そして、周縁とみなされがちなアートという営みを、出会った誰もが大好きになる中心的な場であり続けようと思います。ここで、お待ちしています。