日本写真史において傑出した存在として知られる安井仲治(1903-1942)の20年ぶりとなる回顧展を開催します。大正・昭和戦前期の日本の写真は、アマチュア写真家たちの旺盛な探求によって豊かな芸術表現として成熟していきました。この時期を牽引した写真家の代表格が安井仲治です。安井は38歳で病没するまでの約20年という短い写歴のあいだに驚くほど多彩な仕事を発表しました。戦前日本写真界のフロントラインをひた走った安井の作品は、同時代の写真家をはじめ土門拳や森山大道など、後世に活躍した写真家や評論家・写真史家からも掛け値なしの称賛を得ています。
本展では200点以上の作品を通じて安井仲治の全貌を回顧します。戦災を免れたヴィンテージプリント約140点、ネガやコンタクトプリントの調査に基づいて制作されたモダンプリント約60点のほか、さまざまな資料を展示。安井の活動を実証的に跡付け、写真の可能性を切りひらいた偉大な作家の仕事を、およそ100年の時を超えて現代によみがえらせます。
18歳で関西の名門・浪華写真俱楽部に入会した安井は、写真家としてまたたく間に頭角を現し、先進的な作品で日本全国にその名が知られる存在になりました。欧米の先進的な写真表現や理論をいちはやく受容し理解した安井は、それらを換骨奪胎することで新しい表現を次々に生み出していったのです。しかし、当時の写真界で安井が傑出した理由はそれだけではありません。独自の被写体を見出す感性こそ、余人をもって代えがたい安井の魅力だと言えるでしょう。混沌とした世界の一隅にカメラを向け、そこに隠された美を抽出する安井の卓越したセンスは、日本全国のアマチュア写真家たちから高い評価を受けました。