1960-70年代は、進む都市化によって周りの環境が目まぐるしく移ろい、社会の制度や枠組みも大きく変化した時代でした。写真や映像、音響の録音機器などが個人ユーザーにも届くようになったのもこのころです。そうした時代に美術作家たちは、たとえば車に乗って延々と続く高速道路を運転するときに開ける視界、日々目にするものをひたすらに写真に収めていく行為といった、あたらしくもすでに日常となった体験を作品へと接続していきます。あるいは、日常的に用いる文字や言葉を見つめ直し、口から発し、耳にする音を再考しようと試みました。本展では「枠と波」をキーワードに、当館の所蔵作家のなかから、おもに1960-70年代に言葉や音、日用品や身近な風景を取り込み、見ることや聴くこと、体験することや記憶することそのものを問い直した作家たちを紹介します。また、とりわけ、狗巻賢二、野村仁、堀尾昭子、松澤宥、櫃田伸也の5人の作家については、70年代以降の作品も織り交ぜて展示し、50年ほど前から今日につながる問題意識を探ります。