つくりかけラボは、「五感でたのしむ」「素材にふれる」「コミュニケーションがはじまる」いずれかのテーマに沿った公開制作やワークショップを通して空間を作り上げていく、参加・体験型のアーティストプロジェクトです。いつでも誰でも、空間が変化し続けるクリエイティブな「つくりかけ」を楽しみ、アートに関わることができる表現の場です。―
今回は、美術家の大小島真木さんをお迎えします。大小島さんはこれまで、描くことを通じて、生き物を包み込む森や繁殖(はんしょく)する菌、国境をまたぐ鳥、覚醒(かくせい)する猿など、様々な生物のまなざしを自らの内に宿し、万物の記憶の集合体としての世界のありようを追求してきました。「人間以外の目線で世界を語る」というテーマのもと、会期中に繰り広げられる「ゲスト」たちとのトークや、来館者たちとの往復書簡を糧に、アーティストがどのような空間を作り、変化させていくのか、目が離せなさそうです。
アーティストからのメッセージ
気持ちの良い一陣の風を肌に浴びたとき、この爽やかな風は誰かが遠い昔に放ったひとすじの溜息(ためいき)なのかもしれないと思うことがある。名前も知らない誰かの口からふと溢れでただろうその溜息は、樹木や草花の間を通り抜けながら増幅し、大地や海原の馥郁(ふくいく)たる匂いをその身に纏(まと)わせ、やがて渡り鳥たちと共に天空を舞い、物理的にも時間的にも遠く離れたところにいる私の肌に今たまたま触れただけなのかもしれない。そんな風に思うと、私が生きているちっぽけないまここが、時間も空間も超えて世界のあらゆる時代、あらゆる場面と繋(つな)がっているかのような気持ちになる。もちろん、溜息(ためいき)ばかりとは限らない。そこには太古の三葉虫のおならだって含まれているかもしれないし、深海プレートの亀裂(きれつ)から漏(も)れ出た天然ガスだって含まれているかもしれない。世界ではいつだって無数の色が、音が、香りが、味わいが、感触が、始まりも終わりもなく反響しあっている。とどまることを知らない万物照応(ばんぶつしょうおう)。それはあたかも差出人も受取人も定まっていない文通のように、私たちを私たちへと関係づけていく。ところで、あの気持ちの良い風を起こした人は、どんな気持ちで溜息(ためいき)をついていたのだろう。今回のつくりかけラボでは、皆さんと一緒にそんなことを想像してみたいと思う。