没後10年 色褪せぬ香の気配
このたび、ギャラリー島田のun・deux・troisの3会場にて、大規模な松村光秀展を開催する運びとなりました。
ご命日の9月11日をはさみ、松村作品を研究されている、ご自身も日本画家であられる渡邊亮平氏の多大なご協力を得て、年代を追い、作品をじっくりご覧いただきます。
深く掘り下げられた松村光秀の世界を今一度ご高覧ください。
ギャラリー島田
松村光秀の作品ほど取り繕うという言葉と程遠い作品もまれであろう。その作品は恐ろしいまでに剥き出しであり、観る側にも何らかの覚悟を迫るような鋭さがある。
松村の作品には昨今よく見かけるようなデジタル画像に寄ったリアリティとは全く別種のリアリティがある。そして、そのリアリティは表現するという行為自体がもっているデモーニッシュな一面を観るものに感じさせる。
松村が描き、彫り出していくモチーフのしぐさは、言葉にならない感情の塊を表現するかのように、さまざまな声を重層的に発している。松村の作品世界である特殊な重力の磁場で、モチーフたちは舞うように身をよじりながら我々に何かを語り掛け続けているのである。
渡邊 亮平(愛知県立芸術大学大学院 美術研究科)
その生い立ちが抱えたもの、経験が与えたものを人間として勇気をもって直面し、受容し、それを表現という行為で昇華してきた松村さんの姿は仰ぎ見る高峰に感じた。生きる姿勢に微塵も嘘がなく、絵はまた嘘をつかない。一見、異形に見えるのは、まさに、それらが生み落としたものに違いない。
歳月が押し流したもの、押し流せなかったもの。沈殿したもの、洗浄したもの。それらが交差する作品から、天上の静謐と地上のひたすらな生がせめぎあった、密やかな歌声が聞こえ、香りが匂ってきます。
島田誠
(著書)『絵に生きる 絵を生きる ―五人の作家の力』より