「万巻の書を読み、万里の道を行く」―旅は、いにしえより中国文人が読書とともに最も大切にした営みでした。未知の空間に踏みいり見聞を深め、山河の気に触れることを重視していたのです。
江戸時代の文人画家たちも多く旅に出ました。旅先では、美しい風景、心通じあう友・優れた師、そして先人の貴重な絵画や書など、さまざまな出会いがありました。自らの内面を心の赴くまま自由に筆墨に託す文人画家にとって、そういった体験が制作の滋養となったことはいうまでもありません。
旅の楽しみはそれだけではありません。文人にとって絵の中を旅すること―描かれた理想の天地に身をおくことこそ最大の醍醐味でもありました。
本展では、住友コレクションより「旅」をキーワードに江戸時代の京・大坂を中心とする文人画をご紹介します。長崎に来舶して日本に多大な影響を与えた沈南蘋ら中国の画家の作品もあわせてご紹介し、東アジアを舞台にした書画による文人画家の交流にも注目します。