貴族社会において和歌は教養であり、互いに想いを伝える大切なコミュニケーションツールのひとつでした。「かな文字」や「散し書き」の書法が浸透し、華麗な装飾料紙が和歌の世界観に華を添えると、書風だけではなく、意匠を凝らした料紙にも関心が寄せられるようになります。また文学的な発展として、掛詞、枕詞、本歌取りなどの表現技法が確立されると、それらの教養は共通の学問として重要視され、和歌を介した交流はより一層盛んになりました。そうした風潮は和歌に限ったことではなく、公事(公的な儀礼)で披露される管弦や蹴鞠、香道、茶の湯などの芸道においても素養や礼節が求められ、より洗練された“たしなみ”として意識されるようになります。やがて熟達した者は指導的な立場として活躍し、家業として継承しながら将軍家、大名家をはじめとする教養層との関係を深めていきました。
時代の移ろいと共に、雅やかな王朝文化は書跡や絵画の主題として愛好されるようになり、“芸術”へと昇華されていきます。そうした趣向は工芸品の意匠にも求められ、将棋や貝合せなどの遊戯具が婚礼道具の一具として取り入れられるなど、後世では格式の高い“遊び”として広く親しまれるようになりました。
本展では館蔵資料を中心に、代々岡山藩主をつとめた池田家ゆかりの和歌資料や美しい装飾料紙の短冊、二代藩主の綱政が和歌の添削や指導を受けた詠草など藩主のたしなみを伝える資料をご紹介します。また蹴鞠に関する書や衣装類、琵琶・琴・笙の楽器類、遊戯具など武家に伝わる豊かな教養と遊びの文化を展観いたします。