近代において、日本は朝鮮半島や台湾をはじめ、大陸や南方に領土を拡大していきました。そのような状況下、多くの日本人画家たちは、旅行をしたり、「外地」で暮らす親族を訪ねたり、兵士として、また画家として従軍したりと、さまざまな目的で、大陸や南方の「アジア」に渡りました。当時、日本の画家たちの多くは「アジア」を、憧れの地や楽園として認識する一方、大陸進出が本格化する中で、"導くべき対象"としても認識していました。そこは、新しく手に入れた「日本(外地)」でもあったのです。
画家たちは、そのように支配する側と支配される側という不均衡な関係性の下で、めずらしい風景や植物、建築物、人びとの生活、戦場や戦跡を実際に目にします。また、彼らはそこに、異国情緒や楽園イメージ、その土地らしさ(ローカルカラー)、あるいは戦争の悲惨さなどさまざまなものを見出し描いています。たとえば、大分市出身の洋画家佐藤敬(1906-1978年)は、雨期という南方特有の気候のなかにスペイン植民地であった過去を伝えるキリスト教の教会がそびえる風景にマニラらしさを、中国の戦跡には日本の戦勝を見出して、絵画にしています。一方、浜田知明(1917-2018年)は同じ戦場に、戦争の悲惨さや仲間の死、あるいは日本の「加害」を見出し、小さな版画の画面を通して静かに伝えています。
本展では、このような「アジア」の地に渡った画家と描かれた作品をとりあげ、画家たちがそこで実際にみたもの、そしてそこに見出したものを紹介します。