盛岡出身の宇津宮 功(うつみや・いさお 1945~)は、1967(昭和42)年、武蔵野美術大学卒業と同時にフランスへ渡り、以来西欧文化に身を置きながら、独自の表現世界を追求してきました。
渡仏後、ほどなくスプレーによる独自手法の《折りたたまれた人間達》シリーズでデビューした彼は、ヨーロッパでも耳目を集める存在となっていきます。その後、絵筆の描写に移行し、少年期の原体験を基にした《イエローリバー》シリーズ、自然や生態系破壊といった現代社会への警鐘に端を発した《生物圏保護区》シリーズ。そして海外での異邦人としての我が身を振り返えったときに感じる“己の場所をどこにも置かない立場なき立場=Non Lieu〈ノン=リュー〉”。これが《非・場》シリーズの端緒となります。このように哲学的な思考に裏打ちされた表現活動を展開してきた宇津宮が次に向かったのが、自身の底流に流れる肉体言語としてうごめく姿態でした。そこにこそ人間の原初的な動きの源が存在すると感じ、これが《舞態》シリーズへと昇華していきます。
彼の作品は一度見たら忘れられない迫力で我々を圧倒し、思考を困惑させ、かつ豊かなイメージ世界へと導きます。故郷岩手での原体験や神話的世界へと思索を巡らせ、それらが融合し綴られる異次元の空想世界。ダイナミックなストロークと力強く攻撃的な色彩で、異空間を舞う肉体のエネルギーを物語として歌い上げています。
渡仏して50年以上経過し、ますます円熟味を増した宇津宮の表現世界。本展は、最新作を中心に彼の歩みに迫ります。