まず最初に、海に取り囲まれた日本に対して大きく関わった、地球的規模の「縄文海進」によって、凡そ80mも海面が上昇し、ナウマン象が闊歩する大草原だった瀬戸内海は多島海となった。我々の祖先である縄文人に対して、「ピンチがチャンス」の観点で何を失い何を得たのかを考えてみたい。
長崎県佐世保市泉福寺洞窟出土の「豆粒文土器」は土器発明の理論的仕組みを1万数千年隔てた我々に指し示している世界最古級の土器である。以後時代が変わる度に、今日まで日本は色々な焼物を生みだし、胸を張って焼物大国と言っても良い程の歴史を築いてきた。その上、日本では社会的矛盾の高まりと共に、換言すれば新しい時代の転換期を迎える毎に、美意識の変化たるものをいち早く焼物が受け止め、新しい波のように大きな変化をそれぞれの時代の人々に見せてきた。
本展はそれを縄文式土器、弥生式土器、須恵器、寒風須恵器、六古窯に代表される中世陶器、圧倒的な文化の花を咲かせた桃山文化と切り離せない備前焼と「侘び寂び」、近世の陶磁器へとたどる遠大で途切れないループのようなめくるめく鑑賞の旅へとご案内しようとするものである。さらにその焼物と歴史のスパイラルの原点とも言えるものが、2階のコーナーでさらに大迫力で展観される。
さて、その焼物の全ての始まりは縄文式土器であり、そして今世界的にも縄文ブームが起きている。縄文を優しさの最先端に感じられる理由についても考えてみたい。「縄文スパイラル」として世に問い続けている猪風来ファミリー作品を見た現代人が、今それが新鮮に感じられ、魅了されるのは、迷っている時代のせいであろうか。
備前焼ミュージアム館長 臼井 洋輔