志村信裕は古書、バケツに入った水、家具やリボンなど、日常でわれわれを取り囲む身近なものに映像を投影し、そのシーンから導かれる記憶を呼び覚ます作品を制作しています。親しみのある日用品に宿る、音のない映像は、われわれの身体や記憶の深部に潜んでいる「もの」の共鳴による体感を生み出し、呼び覚まされた記憶が重なり合うことでどこか懐かしい情感がわき出します。「もの」と「もの」、「ひと」と「もの」、「ひと」と「ひと」が互いに触れ合うことによる「運動」が創出され、日常では動くことのない物体に命が宿る志村のインスタレーション。本展は「游動」と題し、水・光・月をモチーフとして取り入れた新作を制作、展示します。自然や事物のあり様を捉え続けている志村の作品は、水の中の浮遊感や風にゆらめく木々の生き生きとした漂いに見ることができる「游/遊」と「動」を生み出し、日々われわれの日常の中で游動している事物とわれわれ自身との交感の様を鮮やかに写し出します。