江戸っ子の芝居好きはよく知られていますが、時代が明治に移り変わっても、東京の市井の人々の間では、芝居が娯楽として変わりなく親しまれました。明治初期に東京の下町に生まれ育った清方は、両親から影響を受けて芝居を愛好し、若き日は役者になることを夢見たこともありました。
やがて挿絵画家として歩み始め、演劇雑誌に劇評や舞台上を写したスケッチ、そして登場人物の麗しい姿を口絵に描き、その細やかな観察眼と表現力が高く評価されました。また日本画作品においても、好んで舞台の美に取材しました。中でも京鹿子娘道成寺の花子や本朝廿四孝の濡衣に関心を寄せて描いたといいます。
さらに明治時代の劇場空間や観劇に訪れた人々にも画趣を感じ、幕間の様子や、升席で楽しむ女性たちなど、今では文化史的にも貴重な往代の風俗を作品に残しています。
本企画展では清方の芝居絵と共に、押絵羽子板《明治風俗十二ヵ月》など新春の風情豊かな作品も併せて紹介いたします。