いくつもの海峡に囲まれ、大小無数の島が浮かび、独自の風景を形作っている瀬戸内海。各地の景観は、名勝地として万葉の時代から長らく日本人に愛されてきました。しかしながら、この魅力的な複数の湾をひとつの「瀬戸内海」として捉えるようになったのは、近代以降のことです。1934年には、日本固有の景観として世界に誇るべき、守るべき場所として日本初の国立公園に指定されています。画家たちは、外からの目と内からの目が複合的に絡み合い形成された「瀬戸内の風景」を、各立場から自然と向き合い、それぞれの個性を映し出すかのように表現しています。
本展では、水を描かせたら当代随一といわれた吉田博が一連の版画集として発表した〈瀬戸内海集〉、また近代洋画家の巨匠のひとり梅原龍三郎が描いた仙酔島、緒方亮平や和田貢といった福山出身の画家たちが残した鞆の風景、そして港の人々の暮らしなど、多様な視点から捉えられた瀬戸内の風景を、「瀬戸内海」の発見」、「瀬戸内に魅せられた洋画家たち」、「福山の画家たちと鞆」、「日本画家たちと瀬戸内」、「人々の暮らし」、「新しい風景」という6セクションに分けて紹介します。