「9月8日船で岡山を発ち、風待ちのため牛窓に逗留。11日大阪着。淀川を経て12日京都伏見。陸路江戸へ向かい、25日江戸到着」。これは初代岡山藩主の池田光政が岡山県指定重要文化財「池田光政日記」に記した、明暦3年(1657)の岡山から江戸までの旅程です。街道が整備された江戸時代以降は参勤交代をする大名をはじめ、文人や絵師など多くの人々が旅をしました。本展では旅と風景をテーマに、岡山藩主池田家伝来の重要文化財「アジア航海図」や岡山県指定重要文化財「坤輿万国全図屏風」、岡山藩主が記した旅日記など池田家の旅にまつわる品々と、旅を友とする文人や名所を描いた絵師の画などをご覧いただきます。
旅の醍醐味の一つは美しい風景を愛でることですが、これは身近な場所でも楽しむことが出来ます。中国の洞庭湖流域の美しい八つの風景をまとめた瀟湘八景が日本に伝わると、近江八景など風光明媚な風景を組みにして楽しむ、言わば“組景”が全国各地で生まれました。狩野三信筆「川口・虫明八景画巻」を見ると江戸時代の岡山でも日常の風景を楽しんでいた様子がうかがえます。本展では現代岡山の組景として、岡山県立美術館 博学連携事業「カルチャーゾーン・プロジェクトー岡山カルチャーゾーン三十六景ー」で制作された岡山県立岡山芳泉高等学校美術部の皆様の全作品を展示します。瑞々しい感性がデジタル技術を駆使して切り取った現代の組景を、江戸時代の画巻と共にお楽しみいただきます。
岡山藩の藩主がおよそ半月をかけて旅した旅程が、今日では3時間ほどで移動することが可能になり、遠方への旅を楽しむことが出来るようになりました。しかし旅の魅力は日常にも存在しています。遠方への旅も、近場の外出も共に愉しんでみませんか。きっと新たな発見があるはずです。