本展覧会では、ある一人の美術愛好家が収集した作品134点を紹介します。
彼は特に専門の美術教育を受けたわけではありません。就職の後外勤を担当し、多くの顧客と接するなかで絵画愛好家や熱心な美術コレクターとの出会いがありました。それが美術に関心を持ち、作品の収集を始めるきっかけとなります。当初日本画から始まったコレクションは版画作品へと移行し、現代版画の収集を通して同時代の美術を体験的に学んでいくことになります。その後コレクションの対象は徐々に広がり、ジャンルを特定せず「自分の琴線に触れたもの」を集めるという方針に収束しました。
サラリーマンとしての経済的な事情もあり、その対象の大半は同時代の作品です。個展会場での出会いがすべてと言ってもよいかもしれません。そのように収集された作品は三十数年の間に1000点を超える数となりました。
作家への精神的経済的な援助の意味合いがあったとしても、一サラリーマンである彼がなぜこれほどたくさんの作品を収集できたのでしょうか。それは、「見る」ということが、彼にとっては単に「見る」だけのことではなく、「見る」+「収集」の意味があったからではないでしょうか。言い換えれば、収集が鑑賞の一部になっていたということです。
ですからそのコレクションには、手元に持っていたいとか、好きな作家だからといった意味だけではなく、より本質的な意義があるように思われます。ここには抽象/具象といった区別も、わかる/わからないという思い込みもありません。一人のコレクターがすべてを同じ視線で見つめ、身体全体で「鑑賞」した結果なのです。
こうしたコレクションの展覧を通じて、みなさまの心に響く作品との出会いやそのきっかけの場をご提供できれば幸いです。