■森本秀樹さんの名古屋個展に寄せて 笠井 誠一
森本さんに初めて逢ったのはいつ頃かははっきりしませんが、作品に目を止める様になったのはフォルム画廊やギャラリーゴトウでの個展を始めてからになります。程よく抑制の効いた穏やかな表現で、見る者を作品の中に誘い入れて行く画風が印象に残りました。また変動の多い美術界の動向を視野に入れながらも、落着いた足どりが作家への信頼感につながっています。今回展示される予定の《麓の蜜柑山》、《バラック小屋回想》小品の《東禅寺の鐘》、《春海苔を食べるカモ》など人工物の加わった自然、あるいはそこに暮らす人や動物などを扱った作品からは、身辺のものへの親密な眼差しが伝わって来ます。そうした身近なものとの対話と観察は作画の行程で更に練られて行く作法で、森本さん独特の世界を築かれて来た様に思われます。平素ゆっくり会話を交わす機会を持てませんでしたが、昨年4月松山のミウラート・ヴィレッジ(三浦美術館)を訪れた折、地酒を楽しみながらの歓談は一層交友を深める夕べになりました。名古屋画廊での4回目の個展に際して、これまでの成果の上に更に森本さんの世界が拓かれて行く事を期待しています。 (立軌会同人・愛知県立芸術大学名誉教授)