美術作品は常に作家によってなされたなにごとかの痕跡として実現されています。しかしこの当たり前の事実に私たちは目を閉ざしてきました。切り裂かれたカンヴァス、飛び散った塗料の跡、画面に残された作家の手形。1950年代以降、現代美術の主流を占めるイメージの多くが何かの似姿ではなく因果関係に基づいて成立し、表現の場に身体や物質が生々しく刻印されていることは決して偶然ではありません。
この展覧会では「痕跡」という独自の観点から戦後美術の展開を検証します。欧米における抽象表現主義、ネオ・ダダ、ウィーン・アクショニズムやコンセプチュアル・アート、日本においては具体美術協会や読売アンデパンダン展周辺の作家、さらにもの派とそれ以降、作家としても表現としても多様きわまりない戦後美術の様々な動向に新しい角度から光をあてる試みです。