東山魁夷館は、画家本人からの作品寄贈により1990年4月26日に開館し、今年、開館30周年を迎えました。本展は、東山魁夷が画家として活動をはじめた初期の時代に焦点をあて、東山“新吉”が、いかにして現代を代表する日本画家・東山“魁夷”に成長していったのか、その背景を探ろうとするものです。
幼少期、絵を描くことで自身の心が癒されることを知った新吉少年は、神戸の自然のなかに身をおき絵画制作を続けました。中学時代に画家になることを志し、東京美術学校日本画科へ入学すると、在学中は特待生に選ばれ、官展でも入選するなど着実に画力を高め、研究科進学時より雅号「魁夷」を名乗るようになります。
美術学校修了後に留学したドイツでは、西洋美術史を学び、西欧の文化に触れることで、外から日本画を見る眼を養い、日本画家として歩んでいく決意を新たにしました。
留学帰国後は、画壇になかなか認められず、実家の家業の不振、肉親の死など不遇な出来事が続きましたが、全国各地を旅し、写生を続ける一方、日本画の革新を目指す研究会や小団体にも加わり、新たな表現の可能性を追求するなど、自身の画風を模索する時代が続きます。
戦後、風景画家として開眼し、画壇の中央に迎えられた東山にとって、この終戦までの軌跡は、日本画家として己を貫き、地歩を固める時代であり、国民的画家・東山魁夷を誕生させる上で欠くべかざる道でした。本展では、こうして世に注目される以前の初期の画業に光をあて、新吉少年から東山魁夷となるまでに辿ってきた歩みを紹介いたします。