タイトル等
中馬泰文展(MEMORIES-模写による)
会場
ギャラリーなかむら
会期
2020-09-08~2020-09-27
休催日
月曜休廊
開催時間
11:00am~7:00pm
概要
今日、「描く」ということは

菅谷富夫(大阪中之島美術館 館長)

美術に携わる者は時代の思想性と無縁ではいられない。同じ時代に生きる全ての人がそうであるように、たとえそれを言葉で表すことがないとしてもそれを共有しているものである。優れた作家ほどそれを鋭敏に感じ取り、的確に表現していくものである。かつて私は、中馬泰文が達者すぎる描画力を捨てシルクスクリーンに走ったことを、モダニストとしての誠実さゆえの展開として評価したことがあった。今回、この作家は新たな展開をしようとしている。
中馬が若い時に取り組んだ日本画は紙や絹布に筆で「描く」ことであった。それから既存の物を版に使った「簡易凸版」シリーズを挟み、シルクスクリーンに至る。失礼ながら、非常におおまかに中馬の作品展開を述べるとそうなる。シルクスクリーンに展開した経緯については過去に述べたので省略するが、シルクスクリーンに描かれたモティーフは、チョコレートやお菓子の包紙、コミックの登場人物などであった。どれもアメリカンナイズされポップアートを連想させる物であった。しかし発表された時代はそれよりもかなり後の、バブルの時代を挟む消費社会の真只中と言ってもよい時代であった。
これらは60年代以降に輸入されたポップアートの展開というより、「描く」ことで成立した時代の作品から、記号をシルクスクリーンという複数制作可能なメディアに載せることで成立した作品への展開であったといえる。今風に言えば、アナログメディアへの乗換えであった。
さらにAIだ5Gだという今日、デジタルメディアの時代を迎え、中馬が制作した作品はかつての自己の作品の手書きで「描かれた」下書きをスキャンしてハーフトーンで画面の一部に取り込み、それと同じ図柄の完成作を丁寧に筆ならぬマウスで大きく正確に「描いて」いったものである。時代と共に展開するのであればアナログメディアからデジタルメディアへの乗換え、例えば版画というメディアではなく画像や映像に変わっていてもおかしくないのかもしれない。しかしここでこの作家は単純な展開を望まなかったようである。
デジタル、「描く」、複数制作(出力プリント)といった、これまで作家自身が経験してきた方法の全てをここで駆使している。可能性の全てを示すと共に、時代への共感と疑念をも同時に提示しているともいえる。ここで立ち止まるのか、さらに突き詰めるのか。突き詰めることは新たな世界をつくることになるのか。この時代と共に生きることを運命づけられている私たちと全ての作家に突きつけられた問いかけでもあろう。その意味でこの作品群は大いなる問題作なのである。
会場住所
〒604-8005
京都府京都市中京区姉小路通河原町東入恵比須町424 2F
京都府京都市中京区姉小路通河原町東入恵比須町424 2F
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