千葉県市原市を拠点に銅版画を制作していた深沢幸雄(1924-2017)は1963(昭和38)年、メキシコ政府の依頼により、銅版画の技法を教えるために3ヶ月間メキシコシティに滞在します。深沢はこの滞在をきっかけにメキシコを第二の故郷として交流を続け、1994(平成6)年には同国に銅版画を普及させた功績により、外国人に与えられる最高勲章であるアギラ・アステカ(アステカの鷲の意)を受章します。
池田満寿夫(1934-97)は1956(昭和31)年、前衛芸術家・瑛九(1911-60)の助言によって色彩銅版画を制作します。当初、生活の糧を得るために始めた銅版画でしたが、1960(昭和35)年の第2回東京国際版画ビエンナーレ展への出品が池田に大きな転機をもたらします。同展の審査委員長であり、クレーやカンディンスキーの研究家として著名なヴィル・グローマン博士(1887-1968)が強く推薦したことにより、池田の作品が文部大臣賞を受賞したのです。
実はこの文部大臣賞の受賞者が発表されたその瞬間、深沢は池田のすぐ隣にいて、「全く無名の青年に光が当たった時で華やかな受賞歴の最初の光景である」と後に文章にしています。その後、池田は1966(昭和41)年の第33回ヴェネチア・ビエンナーレにおいて版画部門大賞を受賞します。
本展では無名時代から交流があり、共に世界へと活躍の場を広げることで戦後版画の隆盛期を支えた二人の代表的な作品をとおして、銅版画の魅力をご紹介いたします。尚、本展では千葉県にゆかりがあり、戦後版画を代表する作家として、浜口陽三(1909-2000)、深沢の教え子である清原啓子(1955-87)の作品もあわせて展示いたします。