ヴェネツィアで生まれ育ったアンジュ・ミケーレは、聴覚障害をもつ特別な身体と自意識のシェルターに護られた精神を拠りどころに、この苛烈な現実世界を凝視し、湧きあがる創作の声に従って、日々弛まず絵画を描いている。作家の心身と作品世界は分かちがたく、まさに「生の」表現である。明快でためらいのない筆使いで、目に映る自然の光景を短時間で一気に描ききる。*
住吉智恵
1989年生まれのアンジュ・ミケーレは現在京都とヴェネツィアを拠点に活動を続けています。幼少の頃よりアンジュの類い稀な想像力は目の前の光景を把握し、描く行為へと瞬時に転換します。その形象を掴み取る判断力とスピード感は近年ますます研ぎ澄まされ、確かな力となっています。あるがままの自己や表現を欲求しつつも観念の世界から放たれることの難しさは誰しもが感じることでしょう。しかしアンジュはあたかも光や風が草花の上に印をつけて通り過ぎるかのように、自然な行為として軽々とそれをやってのけます。
シュウゴアーツで初めての個展となる本展のタイトル「イマジナリウム」はアンジュが「Imagination(イマジネーション)」とラテン語の「-arium(場)」を繋げ合わせた造語です。想像力に導かれた場、創造が発生する場であるアンジュ・ミケーレの絵画は人間が先駆的に自由な存在であることを穏やかに表明しています。
3月に完成された「circle」は、近年アンジュが用いるアルミの紙の上に浮遊するようなやわらかな円が描かれています。それはぽっかりと開いたあらゆる時空間への入り口のようであり、人間世界を眺める別次元の惑星のようであり、ただそこに存ることの美しさをたたえます。今展では33点近くの新作を一挙に発表いたします。アンジュ・ミケーレのイマジナリウムに是非ご来場ください。
2020年5月 シュウゴアーツ
*住吉智恵「アンジュ・ミケーレ」『VOCA2020 現代美術の展望-新しい平面の作家たち』(上野の森美術館,2020年,p.26)