無病息災や長寿を願う祝事として今もなお大切にされている節句。古くは公家社会における年中行事に由来し、江戸時代になって、幕府が「人日(1月7日)」、「上巳(3月3日)」、「菖蒲(5月5日)」、「七タ(7月7日)」、「重陽(9月9日)」の五節句を式日として定めたことから広く周知されるようになりました。中でも公家や大名家における「上巳」(桃の節句)の祝いでは、女子の健やかな成長と良縁を願うとともに、小振りで愛らしい雛道具を並べるなど祝事に華がそえられてきました。
季節の節目におこなう節句のほかにも、成人を祝う「元服」の儀礼が男女ともおこなわれるようになり、また新たな門出を祝う「婚礼」の際には、江戸時代ならではの粋な美意識を取り入れた豪華な意匠の調度品が制作されるなど、新たな祝事の文化が築かれていきます。
本展では、祭事や遊戯、民間の風俗を描いた「年中行事絵巻」や三代岡山藩主池田継政が、実母栄光院の古希と次男岑次郎の誕生を祝して岡山城下で披露した祭事を描いた「菖蒲賦物絵巻」をはじめ、五節句にゆかりのある絵画や工芸品をご紹介します。そのほか婚礼調度や輿入れの行列を描いた「御入内図絵巻」、八代岡山藩主池田慶政の正室である宇多子夫人所用の打掛など、岡山藩主池田家に伝わる“ハレの日の装い”もあわせて展観いたします。
本展を通じて、四季の訪れを楽しみ、大切な人の祝事を慶び合う、日本人の豊かな心を感じていただければ幸いです。