アートコートギャラリーでは、彫刻家・松井紫朗の新作展「Far Too Close」を開催します。
人と人、人と地球との位置関係をユーモラスに表現するインタラクティブ作品《Lag Behind/Lag Forward》や、展示室から中庭へと伸ばした導管で空間の内と外を繋ぐインスタレーション《Capital T》など、本展では新作を中心に紹介します。「内/外」「こちら/むこう」「見る/見られる」といったさまざまな領域や関係を鑑賞者が往来し体験しながら、作品を通して地球規模の時間や距離を知覚してゆく、「近くて遠い(Far Too Close)」遊び心に溢れた空間が出現します。
《Lag Behind/Lag Forward》は、天井から吊り下げられたブルーのアーチに頭を入れ、二人の観客が互いに背を向けて鑑賞する作品です。視線を真っすぐにして立ってみますと、たった1m近くにいるはずの背後のもう一人が、実は地球一周分ほど向こう側に立っていることにも気づきます。非ユークリッド幾何学や球面幾何学を基盤に、二人の距離を測る不思議なアーチがギャラリー空間に浮遊します。「向き合う二人」を結ぶ、最短距離であるはずの直線について、観客は豊かに想像を膨らませるでしょう。
また松井は、先端をラッパ型に開いた導管を方々へ伸ばし、壁や距離によって隔てられた空間に声を通わせるインスタレーションを、ドイツをはじめ内外で継続的に発表してきましたが、本展では、8mの導管を展示室からガラス壁を通ってパイプラインのように中庭へと伸ばし、対照的な空間をつなぐ《Capital T》を展示します。
1983年の初個展以来、松井は多様な素材(木、金属、土、石)を用い、生物を思わせる造形で「ART NOW '85」に選出されるなど、“関西ニューウェーブ” を担う若手美術家の一人として注目を集めました。人の知覚や空間概念に働きかける作品を展開し、90年代前半より建築物と一体となったインタラクティブ作品や、巨大バルーンの作品も手掛けるようになります。
身近な出来事から天体の動きまで、私たちは周囲の事象と相対的に自己を位置づけ、身体を通じた対話を図りながら空間を認識しています。松井は、そのような身体経験によって知性の働きを誘発する作品を、多様な素材、形体、色彩、スケールで手掛け、新鮮な空間概念を提示し続けています。