富岡鉄斎(1836~1924)は、近代日本を代表する文人画家です。若い頃より学問に打ち込む中で、中国北宋の文人・蘇軾(そしょく)をはじめとする東洋の先哲たちに憧れを抱き、豊かな学識と古への敬慕のもと、多彩な書画作品を生み出しました。
鉄斎は「万巻の書を読み、万里の路(みち)を行く」という中国文人の理想を、生涯を通して実践し、日本の様々な地を訪れました。本展観では小特集として、奈良にゆかりのある鉄斎作品を展示します。月ヶ瀬の梅を描いた「名士観梅(めいしかんばい)図」(奈良市史料保存館蔵)、吉野の桜を描く「華之世界(はるのせかい)図」(清荒神清澄寺(きよしこうじんせいちょうじ)蔵)などをとおして、古(いにしえ)より文人墨客(ぶんじんぼっかく)に愛された奈良の名所旧跡と、鉄斎がどのように向き合っていたかをご覧いただきます。
更に、後年の鉄斎が文芸界の重鎮として活躍した、京都における文雅の交流を示す「扇面新居雅会(せんめんしんきょがかい)図」(個人蔵)をはじめ、知人達との交遊の中で生まれた作品をご紹介します。
文華苑に咲き誇る季節の花々とともに、力強くも温かい鉄斎芸術の世界をお楽しみください。