壁に掛けられた風景画やカレンダーを彩る四季の写真、花瓶の花や観葉植物。私たちは知らず知らずのうちに室内に自然を取り込み、愛でています。無限に広がる自然の中から気に入った風景を発見すると、そのイメージに心を奪われ、自分のものにしたいという甘美な誘惑に駆られるのはなぜでしょう。鋭敏な眼差しをもつアーティストたちは、こうした欲求を創作へと昇華していきます。彼らは自然から断片を盗み、これを素材に独自の方法で作品を生み出すのです。本展では「自然」あるいは「室内」をモチーフとした作品約20点を介し、自然のイメージを室内に取り込む私たち人間の行為について考えてみます。ありふれた眺めを崇高な風景画に仕立て上げたリヒターの油彩や、天井から無数の樹脂の雨粒を降らす横溝美由紀のインスタレーションなどを室内に展示する一方、庭園の散策路には、美術館内を撮影した安田千絵の写真と、ヴィンター&ホルベルトが飲料ケースで組み立てた家を展示します。室内と戸外を行き来しながら作品を見るとき、鑑賞者が心奪われ、盗みたくなる自然とはどのような姿なのでしょうか。