~ふるさとで半世紀ぶりの回顧展~
藤島武二は1867(慶応3)年、薩摩藩士の3男として鹿児島市池之上町に生まれました。18歳で上京、26歳からの3年間を三重県津市で中学校助教諭として務めていますが、1896(明治29)年、黒田清輝の推薦で東京美術学校西洋画科の助教授に就任します。その後、晩年まで白馬会や文展、帝展などを舞台に話題作を発表し続けると同時に、アカデミズムの柱石として多くの後進を育てました。1913(大正2)年には初めて朝鮮を訪れ、以後東アジアの風物を意図的に取り上げるようになり、その新たな視点は画壇にも影響を及ぼしていきます。また、二度にわたる皇室への献上画、第1回文化勲章受章など、まさにわが国を代表する洋画家として活躍しました。
細部にとらわれずに本質をつかめという「サンプリシテ(単純化)」の教え、技術にばかりこだわらずにまず自己を把握せよという「エスプリ(精神)」の戒め、あるいは西洋と東洋、古典と現代的表現といった相反するもの同士の融合をめざした藤島の理念は、没後70年以上を経た現在、広く社会一般にも大きな意義を持つものではないでしょうか。
今回の展覧会では、初期の明治浪漫主義の耽美的な女性像、留学時代の簡潔な人物画や風景画、転換期の典雅な横顔の美人画、晩年の抽象絵画に接近した力強い風景画など、各時代の藤島の代表作を展観するほか、書籍の装幀や雑誌の挿絵などのグラフィック・デザインの業績にもスポットを当てます。また、初公開となる作品や資料等に加え、日本画や油彩画の内外の師匠の作品も併せて、約150点を展示することで、藤島芸術を多面的にご紹介します。