栃木県大田原(おおたわら)市と井原市は、那須与一が縁となり、昭和59年に友好親善都市の盟約を結びました。本展では大田原市在住の人間国宝(国指定重要無形文化財「竹工芸」の保持者)の竹工芸家・勝城蒼鳳(かつしろそうほう)(1934年生)の作品を展観いたします。
栃木県は大分県と並び竹工芸の盛んな土地として知られ、大田原はその中心地となっています。これは大田原を含む那須地域が寒暖差のある気候と肥沃な土壌によって、工芸向きの節間の長いしなやかな竹が育つことによります。さらに、大田原市名誉市民・故八木澤啓造が戦後、創作と後継者育成に情熱を注いだことも大きく、勝城はその指導を受けて竹工芸の道に踏み入りました。
勝城は幅広い竹工芸の技法を高度に体得し、重厚で堅牢な作品を生み出しており、その作風は、自然の中で感じたエネルギーを作品に移し替えてダイナミックともいえるものです。地元那珂川の浅瀬、湧水の川に立ち上る水蒸気、牧場に吹き渡る初夏の風、蝉しぐれ、菊花、公園の噴水。自然のうつろいにインスピレーションを得た作品は普段見過ごしがちな自然の豊かさを思い出すきっかけとなり、作者の感得する牧歌的世界に私たちをいざなってくれます。
伝統を継承しつつ、新たな美を創造し続ける勝城蒼鳳の作品を紹介することで、世界に誇りうる豊かな日本の伝統工芸の世界を体感していただくことは意義あることと思われます。名工の生み出した美を展観し、日本の自然について思いを致すよすがとし、同時に日本工芸の水準の高さ、幅広さ、芸術性の高さを実感していただければ幸いです。