ジャン=マルク・ビュスタモント(1952年、トゥールーズ生まれ)はフランスを代表する美術作家です。大型カメラを使って、郊外の風景をきわめてクリアーに捉えたデビュー作「タブロー」(1978-82年)は、写真表現のあらたな領域を切り開いたものとして国際的にも高い評価を受けてきました。
都市と自然の交錯する郊外は、風景としてはありふれたものです。刻々と変貌していく都市の劇的瞬間を見せてくれるわけでもなければ、詩情に満ちた悠久の自然美を教えてくれるわけでもない。人工と自然が中途半端に入り交じっているがゆえに、どっちつかずになっているのです。
もちろん、ビュスタモントがとらえた郊外も、それがいかにクリアーに見えるからといって、この曖昧さから逃れられているというわけではありません。また、郊外を撮影しているからといって、そこで行われている自然破壊を報告しているわけでもないし、漠然とした不安といった郊外に固有の感情を伝えようとしているわけでもない。むしろ、ありふれた細部があますところなくシャープに見えているだけに、かえって一層その曖昧さが際立っているとさえいえるでしょう。つまり、ビュスタモントは、人工と自然が一体となったものとしての郊外ではなく、それぞれを分離し、境界線をはさんで向かい合っている様子を見せようとしているのです。
もちろん、そんなことをすれば曖昧さがますます昂じて、作品の前に立つ私たちを「苛立たせる」(ビュスタモント)こともあるでしょう。しかし、作品の中の交じり合うことのない人工と自然を互いに比較しながら、ゆっくりと全体を見ていくとき、そこには、自然のものでも人工のものでもない、作品そのものに秘められた緩やかな時間が、私たちと作品の間を行き交うことになるのです。
本展は、「タブロー」から出発し、その思考を写真の枠を超えて広げていったビュスタモントの全貌を、写真による代表作の数々に加えて、立体、オブジェなど約80点で紹介します。