ノーベル文学賞を受賞した日本を代表する小説家、川端康成は、美術品の蒐集家としても知られています。土偶や埴輪をはじめ、浦上玉堂の《凍雲篩雪図 (とううんしせつず)》や、池大雅と与謝蕪村による《十便十宜図 (じゅうべんじゅうぎず)》といった近世絵画の傑作や、近代工芸の優品などからなるそのコレクションは、伝統的な美に対する審美眼の確かさを物語っています。同時にモダニズムの芸術に対しても深い理解を示し、ロダンや東山魁夷、さらに古賀春江や草間彌生までをも蒐集の対象としていました。川端は文学作品においても多くの美術品について書いています。伝統的な日本美術作品が登場する小説は枚挙にいとまがないほどですが、たとえば『古都』では、クレーや抽象絵画にまでその筆は及んでいます。しかもこうした美術作品は、小説の本質的な部分に関わるようなモティーフとして扱われているのです。本展は、伝統とモダニズムの双方にまたがる蒐集品を軸に、川端文学の展開や文学者たちとの交流をも視野に入れ、その深淵な美意識の世界に分け入ろうとするものです。