1890年代、彗星のように画壇に登場し、イラスト界に旋風を巻き起こした夭折の天才画家オーブリー・ビアズリー(1872-98)。そのビアズリーのイラストで飾られたオスカー・ワイルドの戯曲『サロメ』英訳版が1894年に世に出るや、一躍、19世紀末のイギリスに「ビアズリー時代」と呼ばれる熱狂を巻き起こしました。ビアズリーの影響は、欧米の美術の動向に熱いまなざしを注いでいた大正期の日本にも伝わります。多くの芸術家や文学者がビアズリーの虜になりますが、なかでも本を活躍の場とする版画家や挿絵画家、グラフィックデザイナーへの影響は絶大でした。一方、ビアズリー自身もヨーロッパを席巻したジャポニスムの洗礼を受け、初期の作品には日本美術、特に浮世絵にヒントを得た構図や描法を見ることができます。
本展は19世紀末から20世紀にかけて、ビアズリーを軸に展開した日英のアートの相愛関係を、およそ270点のイラスト、版画、装幀本でご紹介します。わずか6年に満たない歳月の間に次々とスタイルを変えながら、常に高い完成度の独創的な仕事を遺した奇才ビアズリーの傑作の数々、そして妖しい魔力に満ちたビアズリーの白黒の世界から養分を吸い取り、独自の花を咲かせた日英のアーティストたちの個性あふれる作品をお楽しみください。