このたびBASE GALLERYは、寺田真由美の新作展を開催いたします。
ニューヨークに暮らし始めて14年、小さな模型を被写体に用いて撮ってきた作品は、その虚と実の狭間のなかで、先ほどまで居たであろう人の不在と、それに伴う深い孤独を静かに表現するものでした。新作もその手法は踏襲されているものの、部屋は単に撮影の客体でありながら、そこに私達はその部屋の画像に捉えられてはいない横たわる人の影を見出してしまう。窓外の緑はあくまで下から仰ぐように撮られ、いわば病床から万感の思いで見上げる風景に思えます。先ほどまで居た人の不在とそれが生む寂寥ではなく、そこに臥す人がいずれ立ち去って行こうとする深い孤独と諦念を低い視点は伝えてきます。作品は淡い緑の色調を用いたモノクロで、それは彼我の境界を往復させるかのような夢幻に満ちたものを一層窺わせます。「温湿」と名付けられたこの作品は、従来の寺田の作品の思いを一層深く掘り下げ、不在の寂寥に留まらず、すべての人がついにはこの世から立ち去り、自ら不在を生み出すこと、その不可避の不在を模型と低い視線で表現したものといえます。それは巧みな饒舌より、模型を用いた虚と不便こそ深く静かに人の孤を描くにふさわしいと改めて知らされるものです。
何卒ご高覧、またご喧伝賜りますよう、よろしくお願いいたします。