水田寛は2008年に京都市立芸術大学大学院を修了。ベランダが規則的に並ぶマンションや何台もの車が連なる道路など、都市の風景を独自の描写力と色彩感覚によって描き出した絵画で注目され、MOTアニュアル(東京都現代美術館)やVOCA展(上野の森美術館)などへの参加を通じ、つねに精力的に制作・発表を重ねてきました。
モチーフの限定的な選択や色調のコントロールなど、画面全体に対する綿密な構成意識のもとに制作をおこなってきた水田ですが、近年は、これまで描いてきたモチーフに衣服や食べ物、人物といった対象が加わり、それらの断片が現実的なスケールや意味の区切りを超えて融合する有機的な画面、中断されたイメージが別のイメージと繋がることで再開される複合的な絵画表現を展開しています。
なかでも、絵の一部を切り取り、別の絵の一部と縫い合わせ、その上に新たなイメージを描き重ねる作品シリーズでは、中断と再開の構造が重層化されます。イメージどうしの相互作用と作家の意図が拮抗しながら組み上げられた画面において、カンヴァスの縫い目は画面の領域を区切りながら繋げ、新たに描かれるイメージはひとつの領域を分断する一方で領域間を越境し接続してゆきます。そこではまた、描く/観るという行為も多層的な中断と再開の連鎖に取り込まれています。
多様なイメージが秩序と無秩序の狭間で積み重なり、同時多発的に中断と再開を繰り広げる画面---。そこでは、都市の風景を切り取り、その均質な外観に潜む歪みを提示してきた水田の絵画世界が、都市の内側に息づく私的で雑多な日常、そして風景と風景が繋がり合い形成される都市全体の胎動という、微視的かつ巨視的な次元へと拡張され、濃密なエネルギーを獲得しています。
その根底には、自らが日々経験している流動的で複雑な視覚世界のありのままの姿に向き合い、絵を描くという行為を特別なものではなく、生を紡ぎだす日常的な営みと同等に軽やかで、なおかつ重みのあるものとして実現しようとする作家の姿勢を見て取ることができます。こうした水田の表現に接し、その絵画世界を深い実感とともに体験するとき、私たちの知覚もまた、絶えず変容する動的な世界の様相へと開かれてゆくことでしょう。
本展は、2008年、2010年につづいて約5年ぶりとなる当廊での個展となります。水田寛による現在進行形の作品世界をご堪能いただければ幸いです。同時開催の新平誠洙展との競演もどうぞご期待ください。