一八七二年の創業以来、私ども資生堂は化粧品のみならず、一九〇二年からは現在の資生堂パーラーの前身となる資生堂ソーダファウンテン、一九一九年からはギャラリーの経営など、多様な文化を独自の美意識で彩りながら世に送り出してきました。商品はもとより、パンフレットの一枚に至るまで、微に入り細を穿ち、美しいもの、品格のあるものを創造することに情熱をかたむけた志しは、その時代、その時々にあって、一化粧品会社の立場から美しく質の高い生活を提唱し、日常生活全般を芸術化したいと願う強い意志に貫かれたものでした。
本年から三年間に亘りアートハウスが主催する展覧会「工藝を我らに」は、美術品として高殿に置かれている工藝品を、私たちの生活に取り戻すための試みです。そして、資生堂が永い年月を通じ、人々の生活を豊かにするものと信じて続けてきた提案を、展覧会の場を通じて新たに発信するものです。内容は、本展の趣旨に賛同してくれた五名の工藝家による新作にアートハウスの収蔵品を取り混ぜながら、私たちの日々に寄り添い、喜びをもたらし、大切に受け継がれていくことのできる品々を展覧します。また、作品を展示するだけでなく生活の中での用い方や楽しみ方も併せて提案します。
このささやかな展覧会を、工藝のもつ力、そして、この不安で浮薄な時代に、真心を込めて制作された美しく確かな品々と生活を共にすることで得られる幸福を分かち合い、広く共有していく場にしたいと思います。