ジャン=フランソワ・ミレー(1814-75)は、19世紀のフランスを代表する画家の一人です。大地に根ざし働く農民の姿をありのままに描き出しつつ、宗教画にも通じるような荘厳な絵画を作り上げました。
日本でも、ミレーは明治時代から非常に人気があります。私たちは、その作品に他の西洋絵画の名作にはない親しみと共感を覚え、心のより深いところで感動を抱いてきたように思います。なぜ、ミレーは日本人の心を強く捉えるのでしょう?
その理由は、作品の中に、文化や人種の違いを超えた普遍的なものを見出すことができるからではないでしょうか。日々の労働を慈しむ気持ちや、故郷を愛する心、身の回りの人々に対する慈愛……実は、これこそがミレーの芸術の根幹を成しているものです。西洋絵画の伝統やキリスト教の思想に深く根ざしたミレーの作品ですが、異なる文化や風土で暮らす私たちの心にも響く魅力があるのです。
このたびの展覧会では、人が誰しも抱く温かな感情や心のひだに思いを寄せながら、ミレーの作品を捉え直します。切ないまでの望郷の念、9人の子供の父親としての愛情溢れる眼差しなど、国内外の優品約80点によって、ミレーの新たな一面を紹介します。