日本では古くから伝承されてきた神を祀る紙による造形が盛んに行われてきました。かつては日本各地に祭祀や神社や邸宅を飾る紙飾りの文化が存在しました。中でも東北地方では正月飾りとして複雑な意匠を立体的に切り込んだ豪奢な切り紙飾りが盛んに作られてきました。それらは大規模な神社よりも出羽三山信仰の修験道ともつながりのある中小の神社や民家などを飾る特殊技能として伝え広まったと考えられます。
この展覧会では、千葉惣次氏により蒐集された東北地方(主に福島県、宮城県、岩手県)に伝承された切り紙飾り(オカザリ、切り透かし、御幣、梵天など)および東北の生活文化を伝える郷土人形や玩具、民具、古布なども展示します。それに加え、千葉氏と共に度々東北地方を取材した写真家の大屋孝雄氏による切り紙飾りや東北の生活文化の写真作品も展示します。また切り紙で絢爛に飾られた舞台で舞われる宮城県の上町法印神楽の記録映像等も上映します。これらは東日本大震災以前から記録された貴重な資料と写真であり、その多くも今は失われた文化になりつつあります。しかし、独特なエネルギーに満ち、多岐にわたる地域と様式・意匠の多様性と美しさを伝えるべく遺された切り紙飾りは、まさに自然と生活への畏敬を表す“神が宿る紙飾り”として、東北の文化や民俗に深く根付いてきたことを教えてくれるでしょう。