最後の文人画家として知られる富岡鉄斎 (とみおかてっさい) は、89歳で没するまで、京都を中心に精力的に活動し、大胆な構図、躍動する筆墨、鮮やかな色彩によって文人画に近代性をもたらしました。さらに、鉄斎は、明治以降の日本が中国文化にどのような眼差しを向けたのかを語る上で欠かせない人物でもあります。旺盛な知識欲を持ち、大陸からの文物のとりよせや書籍の購入に熱心だった鉄斎は、自身の中に巨大な知のデータベースを作り上げていました。これは伝統的な東洋文人の教養のあり方を継承するものであると同時に、京都における近代中国学の形成に貢献するものでもありました。鉄斎の周りには、子息・謙蔵の仲介を通じて、内藤湖南 (ないとうこなん) や長尾雨山 (ながおうざん) など多くの学者たちが集まりました。また鉄斎は、文芸界の重鎮として、羅振玉 (らしんぎょく) や呉昌碩 (ごしょうせき) など中国の文人たちとの交流においても、存在感を示していました。
本展覧会では、中国文化への知識に裏付けされた鉄斎作品を出陳し、富岡家旧蔵の書画・版本やその周辺の中国書画コレクションを紹介します。今年は鉄斎没後90年にあたります。この機会に、近代日本と中国の文化交流における鉄斎の重要性を再認識し、その作品の新たな魅力を発見していただければ幸いです。
(担当 植松瑞希)