あの頃のわたしへ
むかしむかしあるところに、肩に波打つ豊かな巻き毛やふんわり広がるリボンのついたドレスを纏うお姫さまを、何枚も何枚も描いていた女の子がいたそうな。その女の子は大きくなると、絵の勉強をするために憧れのフランスへ渡り、来る日も来る日も絵を描き続け、ついには幼い頃に夢見ていた世界を挿絵や絵本として表現する術を身に着けていたそうな。めでたし、めでたし。
こみねゆらのこれまでを物語にしたらこんな感じでしょうか。
「可愛い」と私たちがつい一言で片づけてしまう感情を、空や、地面や、髪を揺らす風にさえ見出し描ききることができる稀有な絵本作家といえるこみねですが、それは、幼い頃の、あの頃のわたしを愛しく思い続けているからかもしれません。
公立美術館初の個展となる本展覧会では、フランス留学時代の版画をはじめ、最新作の絵本「ミシンのうた」の原画や、近年では人形作家としても活躍するこみねの新たな一面もご紹介します。
すべての女性をあの頃のわたしへ誘うこみねの世界観を、心ゆくまでご堪能いただければ幸いです。
熊本市現代美術館主任学芸員 蔵座江美