泰平の幕末、江戸は欧米列強諸国の圧力によって開国か攘夷 (じょうい)(外国人の排斥)かで揺れていました。江戸幕府第十四代将軍徳川家茂 (いえもち) 公(1846~1866)は、攘夷論に固執する孝明天皇に幕府の政策である開国を言上するため、文久三年(1863)上洛 (じょうらく) します。徳川将軍家の上洛は、三代将軍家光公以来229年ぶり。総費用は百五十万両(約千五百億円)、三千人余の武装行列を従えた将軍上洛は、幕末の世を騒がせました。今回ご紹介する『東海道名所風景』は、この歴史的な出来事を題材に描かれたことから、通称『御上洛東海道 (ごじょうらくとうかいどう)』と呼ばれました。このように、幕末期に入って題材に時事性が加えられた浮世絵版画は、庶民に対して情報の伝達媒体としての役割を果たすようになりました。本展覧会では、全163点を展示いたします。併せて、瓦版などの幕末の世を報じた資料をご紹介いたします。名所絵でありながら、報道性をも兼ね備えた『御上洛東海道』を是非お楽しみください。
『東海道名所風景』(通称 御上洛東海道)
『東海道名所風景』は、三代将軍家光公以来229年ぶりの徳川将軍上洛という歴史的な出来事を題材に描かれ、ほとんどの作品に武装行列が描かれることから通称『御上洛東海道』と呼ばれます。二十以上の江戸の版元による共同刊行で、梅素亭玄魚 (ばいそていげんぎょ) の意匠による目録も含め全百六十三枚にものぼる大揃物です。東海道とその周辺の名所だけでなく、京都市中、大坂や畿内の諸国なども取り上げているためこのような膨大な枚数になりました。美人画や役者絵で名を馳せた重鎮・三代豊国を筆頭に、二代広重、月岡芳年 (つきおかよしとし) など、幕末浮世絵界の最大派閥・歌川派の絵師に加え、河鍋暁斎 (かわなべきょうさい) など十六名が筆をとりました。