平成26(2014)年、髙橋節郎(1914-2007)は生誕百年の記念年を迎えました。髙橋節郎は、伝統工芸の一分野と扱われた漆工の世界に、型に縛られない自由な表現方法を取り入れ、工芸美術の分野を広く開拓しました。
長野県南安曇郡北穂高村(現 安曇野市)に生まれた髙橋は、東京美術学校(現 東京藝術大学)工芸科漆工部に進学し、在学中より秀でた作品を制作しています。昭和15(1940)年に開催された紀元二千六百年奉祝美術展に入選してからは、文展、日展を主たる発表の場として活躍しました。
初期の色漆を用いた多彩な工芸作品、戦後のシュルレアリスムを思わせる幻想溢れる雄大なイメージを漆黒と黄金で表現した平面作品、晩年の柔らかな形態を想起させる乾漆立体作品など、新たな漆芸術の魅力を追及し続けました。
髙橋は作品制作のほかにも、母校である東京藝術大学で教鞭をとり、また、現代工芸美術家協会等の美術団体で主要な立場に立ち、多くの後進を育てました。これらの活動から、髙橋は文化功労者に推され、文化勲章の受章に至っています。平成19(2007)年、髙橋はアトリエのある東京都練馬区で逝去しますが、多くの作品は豊田市美術館 髙橋節郎館、安曇野髙橋節郎記念美術館をはじめ、全国の美術館や所蔵家のもとで保管、展示されています。
髙橋の残した作品は漆工の分野に留まりません。クラフト、漆を用いた版画、墨彩画など、どれも独特の魅力を湛えています。今回の展覧会では、安曇野髙橋節郎記念美術館と安曇野市豊科近代美術館の2会場を使い、代表作品とともに、髙橋の息遣いが残るスケッチやデッサン、作品の原画等を合わせて紹介し、髙橋節郎の人と芸術の全貌を振り返ります。