天空の頂に登る歓び
神秘の渓を降りる愉しみ
東京都写真美術館では、戦前のわが国の登山史上もっとも著名な登山家の一人であり、黒部渓谷の地域探査や山岳紀行文で知られる冠松次郎と、北アルプスで最初期に山小屋経営を行い、山岳写真や槍ヶ岳を開山した播隆 (ばんりゅう) 上人の研究でも知られる穂苅三寿雄を紹介する展覧会「黒部と槍」を開催いたします。
冠松次郎は、明治16(1883)年、現在の東京都文京区に裕福な質商の家に生まれ、明治35(1902)年頃から登山に目覚めました。明治42(1909)年、26歳で日本アルプスの踏査を開始、同年、辻村伊助の紹介で日本山岳会に入会。その後黒部の自然に魅せられ、大正7(1918)年、立山から黒部本流に足を踏み入れたのを皮切りに、秘境・黒部渓谷を舞台に数々のパイオニア・ワークを果たし、多くの写真と紀行を残し「黒部の主」の異名をとりました。
穂苅三寿雄は明治24(1891)年、現在の長野県松本市に生まれ、幼い頃から山に親しみ、明治42(1909)年に初めて上高地に入り、大正3(1914)年には初めて槍ヶ岳に登ります。上高地・槍ヶ岳一帯の登山道の整備を機に、山小屋建設を決意、大正6(1917)年に槍沢小屋を開設しました。この頃から独学で写真を学び、松本市内に写真館を開業して山岳絵はがきを販売するかたわら、山岳写真を撮り始め、地の利を活かした秀作を数多く撮影、大正末期の積雪期の作品など先駆的な業績を数多く残しました。
多くの人びとを魅了してきた「黒部渓谷」と「北アルプス・槍ヶ岳」。本展覧会では、日本が世界に誇るこれらの美しい自然をテーマに、現存するオリジナル・プリントや多彩な資料で、初期日本山岳写真史にその名を刻む二人の偉業を検証します。