ROOM 1 凸凹(デコボコ)
美術作品と凸凹 (デコボコ) は切っても切り離せない密接な関係にあります。私たちは,魅力的な作品に出会ったとき,色や形の面白さはもちろん,その質感が思いのほか重要なことに気づきます。作品の素材がもつ質感は,表現者のモチベーションを高めてくれるものですし,特に凸凹した質感は,作家の意図を直截に鑑賞者へと伝えるための重要な媒体となります。
たとえば,プラム・ボガート(1921-2012)は,強烈な原色をレリーフ状の凸凹によって一層強調し,色彩に物質としての強度をあたえています。また鷲見康夫(1925-)の作品では,轍のようにうねる油絵の具の凸凹が,画面に作家の行為を如実に表出しています。
そして物質としての質感が魅力的な作品を生み出すこと以外にも,凸凹は作品を成り立たせる様々な要素をもち,それは被写体,行為,版,比喩的表現,さらに凸凹であること自体が作品のモチーフになるなど多様性に満ちています。アルマン(1928-2005)は,数十個のスタンプからなる作品で,凸凹を象徴的にあらわし,鑑賞者の心の中に凸凹した版をイメージさせます。山沢栄子(1899-1995)は,物体の圧倒的な存在感を写しだす抽象的写真表現を極め,見る者に凸凹した被写体の質感をあますところなく伝えます。あるいは「日常という言葉に平坦なイメージがない」と語り,日常のなかで引っ掛かったもの,響いたものを描きとめるドローイングという行為を綿々と続けてきた中原浩大(1961-)が被写体としたのは,通常,基底材とみなされていない自らの手に描いたドローイングです。
そのほか凸凹した構造自体をコンセプトに取り込んだヘスス・ラファエル・ソト(1923-2005)のキネティック・アート,パズルのように組み合わさった凸凹のかたちが魅力的な浅野竹二(1900-1999)のグワッシュ作品など,本展では凸凹が生み出す豊かな表現を通して当館の所蔵作品をお楽しみください。
ROOM 2 戦争の惨禍
ゴヤによる80点の銅版画集
スペインが生んだ近代絵画の巨匠フランシスコ・デ・ゴヤ(Francisco de Goya, 1746-1828)は世界的に有名な画家であるとともに,デューラー(1471-1528)やレンブラント(1606-1669)と並ぶ偉大な版画家でもあります。生涯に約270点の版画を制作しましたが,なかでも4大連作版画集といわれる《ロス・カプリチョス(気まぐれ)》《戦争の惨禍》《闘牛技》《妄》は,油彩画にもまして自由な想像力が発揮され,ゴヤ芸術の本質が表れているといえるでしょう。本展では,その一つである銅版画集《戦争の惨禍》より,当館が所蔵する初版全80点(1863年)を一堂に紹介します。
《戦争の惨禍》は、スペインで1808年から約6年間つづいた対仏独立戦争による戦禍の記録です。ゴヤは1810年から制作に着手しましたが,生前に発表することはなく,死後35年を経てサン・フェルナンド王立美術アカデミーから80点セットで刊行されました。暴行,略奪,強姦,虐殺など,戦争中に目撃されたナポレオン軍や敵対するスペイン軍が犯した残虐行為,戦争がもたらした飢饉と荒廃,そして人間と獣が合体したグロテスクな形態の寓意による政治諷刺など,目撃者ゴヤの客観的な眼差しを通して刻まれた凄絶な光景は,直截的な真実味をもって見る者に迫ります。それは戦争批判を前提とする,人間の愚かさや醜さへの告発でもあり,言い知れぬ深い苦しみを表しています。貴重な初版全80点の展示にて,美術史上,最も衝撃的な戦争画であり,革新的な版画技術を駆使した傑作を,この機会にぜひご高覧ください。
Francisco de Goya: Los Desastres de la Guerra
*ROOM2|戦争の惨禍 ゴヤによる80点の銅版画集は,「伊丹市芸術家協会展」3/15(土)→3/30(日)の開催中も継続開催します。
入館料|一般200(160)円, 大高生100(80)円, 中小生50(40)円
*「伊丹市芸術家協会展」は入場無料