「僕は時間が止るという言葉を口にするが、時々永遠を感ずる。
画面に向かっている時に、山で一人している時に、何か一流の芸術に接した時に、
そして亦ごく稀に旨く酔った時に。」……上田宇三郎「劫 (ゴウ)」より
大正元(1912)年、博多の裕福な商家の息子として生まれた上田宇三郎は、常に学年で5指に入る秀才でありながら身体が弱く中学校中退を余儀なくされますが、その頃から日本画を志し、京都と福岡で学びました。彼は戦前から密度の高い作品を発表し、昭和22(1947)年には4人の画友とともに「朱貌社」を結成し、注目を集めます。幾何学的な形態分析など西洋絵画から学んだ手法を日本画の画面に生かす試みに没頭する一方で、油彩画家・坂本繁二郎や彫刻家・冨永朝堂といった郷士を代表する芸術家とも親しく交際し、少なからぬ影響を受けました。日本表現派展への出品など東京での発表の機会に恵まれ始めた矢先の昭和39(1964)年、宇三郎は52才で没しました。洗練された造形感覚を示し、次第に暗示性を高めていく上田宇三郎の作品は、宗教上の時間概念や宇宙空間に関心を持ち、経験可能な世界の隣にあるもうひとつの時空間に惹かれ続けた精神的な探索そのものを示すようにも見えます。
本展は上田宇三郎の没後50年を記念し、その画業を回顧するものです。約20年ぶりの回顧展となる本展では、絵画作品約45点をスケッチブックや日記などの資料と併せて紹介します。戦前の博多のモダンな空気を受け継ぎつつ、高い精神性を作品に込めた上田宇三郎の芸術に触れて頂けたら幸いです。