当時10代の少女であった野中ユリが伝説のタケミヤ画廊で瀧口修造企画による銅板画展において鮮烈なデビューを飾ったのは1950年半ば過ぎのことである。以来、半世紀に近い歳月の中で野中ユリの夢宇宙はどのような展開をたどったのか。
本展は版画、装丁、挿絵、コラージュ、デカルコマニー、オブジェなどさまざまな表現媒体を駆使しながら、つねに独自の繊細さを湛えた透明な幻想世界を生み出しつづけた美術家野中ユリの全仕事を回顧する、はじめての展覧会である。
出品作は初期の銅版画に始まり、デカルコマニーなどシュルレアリスム的手法による作品、愛書家たちの高い評価を得ている装丁本、挿絵本(およびそれらの原画)、彼女の宇宙を支える柱ともいうべき瀧口修造、澁澤龍彦など文学者との交友を記録する品々などから、最近作のコラージュ連作、独自の無垢な過激さに包まれた「透明なおもちゃ世界」ともいうべきオブジェ・インスタレーションにいたる作品群で構成される。