慶長八 (一六〇三) 年、出雲国 (島根県) の神子 (みこ) を名のるお国が、宮中で「かぶき踊」とよばれる新しい芸能を披露しました。それは既存の芸能の諸要素に異風な「かぶき者」の風俗を組み合わせた踊りで、やがて群衆からの熱烈な支持を得たお国は、一躍“天下一”の芸能者と称えられます。彼女以降も遊女歌舞伎、若衆歌舞伎のアイドルが数多生まれ、お国は歌舞伎の祖・「出雲阿国 (いずものおくに)」として偶像視されていきました。
そんな歌舞伎のアイドルたちが踊りを披露する舞台は、彼らの面貌・衣裳・所作への観客の視線の集中を促し、それと共に鑑賞の対象としての身体が強く意識されるようになります。その意味で、舞台上のアイドルと、彼らに熱い眼差しを向ける観客を描いた「歌舞伎図」は、人物の美しい立ち姿に焦点を当てて描く「寛文美人図」へとつながる画題といえるでしょう。
本展では、出雲阿国らを描いた初期歌舞伎図を中心に、洛中洛外図・祭礼図・遊楽図・寛文美人図などの華麗な近世初期風俗画を一堂に展示します。劇的な時代の転換期にあたり、現世を懸命に謳歌し、逞しく生きた人々がいかに造形化されてきたか、その人物表現の変遷をお楽しみください。